共同研究

日仏共同研究中間報告
滋賀医科大学整形外科
井上 康二
 日仏整形外科学会の活動として日仏共同研究を行うとの指針が決まり、この企画に参加させていただくことを光栄に思っております。現在、まだ日仏共同研究がスタートしたばかりの段階ですが、会員の皆様に中間報告をさせていただきます。

1.研究テーマ
 疾患の発生には遺伝要因や環境要因が関与するが故に、異なる地域間で有病率や罹患率に違いが生じる。その差が明瞭である程、疾患発生に関与する要因を推測する上で示唆を与える。日仏間で有病率が明瞭に異なる疾患は多数あるが、就中、一次性変形性股関節症が本邦では著しく少ないことは誰もが気付いている。そこで、この疾患の日仏間の有病率の違いを疫学的方法で明らかにし、一次性変形性股関節症発症に関与する要因を推定することを目的として共同研究を立案した。

2.仮説
 1)ASHの股関節病変
 強直性脊椎骨増殖症(ASH)患者にみられる股関節症は、外側亜脱臼型と股臼底突出型の2種類に分類される。本邦では、ASHに合併する股関節症の頻度はフランスのそれより低い。それは、本邦では股臼底突出型が著しく少ないことによる。このタイプの股関節症は、臼蓋縁より発達した異所性骨により骨頭が中に囲み込まれた場合に発生する。
 2)THR後の異所性骨化
 THR後の異所性骨化はTHRの重要な合併症の一つであるが、本邦ではあまり問題視されない。それは、日本人ではこのような合併症の発生は比較的稀なことによる。
しかし、フランスでは高率にこの合併症が生じ、インドメサシン投与などの予防策が真剣に検討されている。
 3)仮説
 上記1)、2)の事実から考えて、臼蓋周囲の骨化傾向が、日本人とフランス人の間で異なるものと推測される。
微小外傷や繰り返すストレスに対する生体反応として臼蓋周囲の骨化がおこりうるが、この反応のし易さに違いがあるように思える。
 もし、臼蓋による骨頭の被覆が大きすぎたならば、滑膜で産生された関節液の関節軟骨への浸透は低下するであろう。このようにして探すぎる臼蓋は関節軟骨の障害をおこし、これが一次性変形性股間節症の原因であるとの仮説を立てた。

3.研究計画
 このような促説を検証する目的で研究計画を立案した。
本研究では、疫学的にみて一次性股関節症の有病率が実際に日仏間で異なるか否か、日本人とフランス人の間で臼蓋の被覆度に違いがあるか否か、そして深い臼蓋が一次性股関節症発症に関連するか否かを明らかにする。本研究はつぎの二つの研究より成る。
 1)研究1
 研究1では、一次性股関節症の有病率が日仏間で異なるか否か、成人の臼蓋は年齢とともに骨頭の被覆度を増すか否か、もしそうであるならば、その増加の度合に日仏間に差があるか否かを明らかにする。
 対象は日仏の腎孟造影受検者で、腎孟造影X線写真より骨盤靭帯骨化、臼蓋被覆、および股関節症の有無について読影する。研究1は日仏の各一施設で行う。
 2)研究2
 研究2では、病院を受診した股関節症患者を対象とし、臼蓋被覆が大きいことが一次性股関節症のリスクとなるか否かを検討する。研究1の結果を分析した後に、研究2の細部計画を立てるが、日仏での多施設研究を予定している。

4.進行状況
 複数施設間でデータを比較する場合には、X線読影に関する検者間、検者内一致性が問題となる。股関節症の判定については、Kellgren-Lawrence(K−L)scaleや最小関節裂隙(MJS)測定などの確立した方法があるが、靭帯骨化の読影については確立した方法がない。そこで、まず骨盤靭帯骨化の程度に関する標準フィルムを作成し、検者間の一致性をK統計で検討した。対象とする7部位についてのK値はすべて0.6以上で良好な一致性が得られた。
 そこで、滋賀医科大学で1991年より1995年の期間に腎孟造影を受検した患者をIDコード順に700人抽出し、このうち年齢が20歳以上で股関節部の読影が可能であった638人 1276股を対象とし読影および種々のX線計測を行った。その結果、臼蓋被覆度は年齢とともに増大することが立証された。また本邦における骨盤靭帯骨化、臼蓋形成不全、股関節症の有病率について、性、年齢階層別に求めることができた。本邦でのデータについては現在さらに標本数を増やしており、また同じ方法でフランスでの研究が始まる予定である。日仏での研究1が終了した時点で研究2を開始する。

5.おわりに
 フランス側の研究相手のPhilippe Wicart氏について少しだけご紹介しておきます。1990年にパリ大学を卒業、現在Cochin病院などのパリの病院で研修をしている整形外科のアンテルヌで、1994年に日仏整形外科学会の留学生として来日しています。スポーツの好きな実直そうな人で、整形外科の分野としては、股関節と脊椎に興味があるそうです。この研究計画を立案するに際し何回もFaxのやりとりをしましたが、私の問い合わせや提案に対し、いつも素早く対応してくれました。
 本企画が実りのあるものとなり、同様の企画が後に続くための土台になればと願っております。本研究の後半は多施設共同研究を想定しておりますので、会員の皆様のご支持をお願い申し上げます。

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